読書録vol.4『虚飾の王妃エンマ』
本の虫"見習い"の読書録 読書最高ランク : 22 , 更新:
「エンマ、いい駒だった?」
あーーー、面白切な面白っ!!!!
今回読んだのは、タイトル通り『虚飾の王妃エンマ』、榛名しおりさんの作品です。初めての作家さん。この作品、『幸福の王子エドマンド』と対の作品らしかったので、図書館で二冊同時に借りました。感想も二つ纏めて書くつもりでした。
面白すぎました。もう1冊読むのを私の心が待てませんでした。ということで、今回はとりあえずこの作品だけの作品の感想です。もう一つの方はおいおい。
舞台は11世紀のイングランドとノルマンディー公国。イングランドと言っても、私たちがイメージする「英国!」みたいになる前のイングランドだと思います。すみません世界史はよく分かりません()
そして当時のイングランドは後進国だったらしく、「狙われる側の国」でした。そして、もう一つの舞台のノルマンディー公国は、「狙う側の国」。ここまでの知識は完全に小説で読んだうろ覚え知識なので信用はしないでください。現時点で全く分からなくても面白さはプライスレスなのでぜひ読んでください。
さて、舞台の話はここまでにしまして。主人公は、ノルマンディー公国のいわば王族的な立場に生まれた女性、「エンマ」。彼女は生まれつき人の感情というものが分からず、物分かりの悪い子としてよく折檻を受けていました。それが原因で、幼くして生きることに希望を失っていたエンマの元に、生き方を教えてくれる人が現れます。彼女の兄を名乗る──エンマと同じように、人の感情が分からない男に。
これをきっかけにエンマは生き方を覚え、女として、王族の姫として人を利用する術を覚え、「ノルマンディーの宝石」と呼ばれるまでになります。そして17歳になった彼女は、遠く年の離れたイングランドの王に嫁ぐことになります。イングランドをノルマンディーの掌中に収めるために。生き方を教えてくれた兄にとって、少しでもいい駒になるために。
彼女は兄の期待通りに動き、見事にイングランド王の心を掴みます。
が、同時に彼女の中におかしな心の動きが現れ始めるのです。──イングランド王の息子、いわば義理の息子である王太子、アゼルスタンに。そして、それはアゼルスタンも同様でした。二人は──少なくともエンマは、その感情や行動に何と名前がつくのか知らないまま、時間を共に過ごすことが増えていくのです。
そんなことが増えてきたある日、アゼルスタンはエンマにこう言います。
「あなたを解放したい」
「できないと、公(エンマの兄)に思い込まされているだけだ。何がそんなにこわい。あなたは自由だ。どう生きようがあなたの自由だ。どうしたい? 何をしたい。このおれにどうしてほしい?」
ここで誤解されたくないのが、アゼルスタンはまだ20歳です。そしてエンマは17歳。正直年齢云々とかを(現代の価値観で)考えればアゼルスタンとエンマが結ばれた方が自然なんです。──そして、「お姫様と王子様は〜」のような、物語としても。「年寄りの王様から、若くて美人な王妃様のために王位を父から奪う息子」って、物語的にすごく映えますよね。
そしてここでエンマだけでなく、私の中にも葛藤が生まれました。「そーだよ、アゼルスタンの手ぇ取っちゃえよ! 祖国? 別にいいじゃん、エンマの人生じゃん!」と、「いやいやいや駄目でしょ。義理の息子でしょ? 倫理的にアウトじゃない? というかエンマがイングランドに来た目的は、『イングランドをノルマンディーのものにするため』でしょ?」って。
結論を申しますと、エンマがアゼルスタンの手を取ることはありませんでした。彼女は欲望に勝った──と、言っていいのか正直すごく微妙です。もしかしたら負けてるのかもしれません。祖国とか、兄とか、エンマ自身とか、何に負けたのかはいろいろとありすぎて分かりませんが。
さて、この後がどうなるかはもう言いませんが、この出来事と、これから起こることを踏まえて、私はこの物語をこう感じました。
「これは、ヒロインになれなかった人の物語だ」と。
勝手な推測です。それが合ってるのか分かりません。第一この物語の主人公エンマですし。
でも、確かに「ヒロインではない」と私の中では断言してしまいます。いろいろと要因があると思うんですけど、まあ、一番の大きな原因はやっぱり「アゼルスタンの手を取らなかったこと」です。
でも、別にこれはエンマを責めている訳ではありませんし、この物語に不服がある訳ではありません。だって現実的に考えれば、手を取る方が困難です。だって、たった一人のために、17年間頑張って手に入れてきたものをかなぐり捨てるんですから。捨てた先にあるものが不幸なのか幸福なのか分からないままに。
で、だからか不思議と微妙に、本当に微妙にですがエンマに共感を覚え、私は気づけばエンマの味方をしてしまう。たとえ傍から見れば自業自得であることも、うっすらとエンマに同情してしまう。
ここが肝だと勝手に思うんです。世の中、何かに一点賭けできるような人ってあまりいない。これまで積み上げてきたものをかなぐり捨てられるような人ってなかなかいない。たとえどれだけ衝動が自分を突き動かそうとも、立ち止まって自分がいま持っているものと天秤にかける冷静さを忘れられない。「ヒーロー・ヒロインになれない人」の方が、世間では大多数だと思うんです。
だから、エンマがどれだけ賢くて美人で、優秀な女の子であるとしても、私はエンマへ同情することが止められない。何となく、「自分も同じ側だ」と感じてしまうから。そして読むのを止められなくなってしまう。「どうか、エンマが少しでも幸せになりますように」と。
──そんなヒロインになれなかったエンマはこの後どう生きるのか。彼女は幸せになれるのか。手を取らなかったあの日を後悔せずにいられるのか。それは読んで確かめてください。ネタバレというのもありますが、私の知識と力量では説明しきれません()
そして、まだ読んでませんが何となく、次の『幸福の王子エドマンド』は「ヒーローになった人の話」なのかな、と思ったり。こちらの感想もまた近いうちに書きたいと思います。あと、このお話は『虚飾の王妃』『幸福の王子』どちらから読んでもいいし、片方だけでもいいそうです。だから、『幸福の王子』から読んだらまたエンマも私の見方とは違って見えるかも……?
まあこんなのだから読書って止められませんよね。楽しい!!!!(締めたつもり)
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